最近の将棋で気にするようになったのは、相手の陣形が中途半端な時に仕掛ける、ということです。たとえば、相手が片美濃囲いから、高美濃や銀冠に組み替えようと一手指したその瞬間です。あるいは、相手が後々の攻めのために歩を突き捨てようとしたその時です。
攻めの準備が整った、自玉の囲いも大丈夫、というタイミングで仕掛けるのもありですが、それは控えてみる。本当に攻め時なのかどうか吟味してみる。攻めも受けも万端なのだから、こちらから仕掛けても成功しそうですが、これが意外とそうでもない。
自分の戦力が十点だとすれば、相手も普通は防御に十点をかけてきます。その状態で、仕掛けが進んでいっても、駒の交換にはなりますが、相手の囲いはしっかり残ったまま。局面が少しでも落ち着いてしまうと、相手に攻め駒が渡っていて、手痛い反撃をくらう余地も出てきてしまう。それは、自分の力技だけで事を推し進めようとしているからではないかと思うようになりました。
私は格闘技はやりませんが、多くの格闘技では、相手の力を利用する、というのが攻撃や技のコツだといった話はよく聞きます。たとえば、自分の力だけで押していっても、相手が頑強に抵抗してきたら、拮抗します。相手を押し倒すことはできません。けれど、相手を一度引き寄せようとすると、相手は抵抗して後ろに体重をかけます。そのタイミングを見計らって、今度は相手を押すのです。上手くタイミングが合えば、こちらから相手を押す力の方向と、相手が引かれまいとした力の方向とが一致します。自分だけでは発揮できない力が生まれて、相手を押し倒しやすくなります。
将棋で仕掛けるに良いタイミングというのも、それに似た面があるのではないか。相手から局面を崩してくれるまで、待ってみる。相手の陣形が中途半端であれば、ほんのわずかですが、戦力差が開きます。相手が望んでいなかったタイミングでもあるはずです。駒の損得はまだ無いかもしれませんが、駒の効率の差が生まれています。そこを狙ってみるのです。