あらきっぺ『終盤戦のストラテジー』

2級への技法

2023年6月に読んでいる将棋本は、あらきっぺ『終盤戦のストラテジー』(2021年、マイナビ将棋BOOKS)です。

あらきっぺさんは著作が今のところ3つあって、これは第2作目です。どれもおすすめですが、今の私にはぴったりの内容でした。(私は、第1作、第3作、第2作の順で読んだことになりますが、1・2・3の順で読んだ方がやっぱり良いですね)

あらきっぺ作品の魅力

あらきっぺさんの3部作の魅力は、一言で言えば、将棋を言語化している、です。

将棋にとって大事な考え方は何かを初心者にも分かりやすい言葉で語っています。符号や局面図などは極力排してあって、それでもどう指したらよいのかが、すっと頭に入ります。

たとえば、「金と銀はクリップしよう」という防御法を紹介しています。金と銀が離れ離れでは狙われやすいよ、でも、お互いに紐づけあっていれば、相手も簡単に取るわけにはゆかない、という手筋です。それを「クリップする」というやさしい言葉、印象にのこる言い回しで、あらきっぺさんは解説してくれています。

私にとって将棋の本は、詰め将棋=パズル本、戦法や手筋=技術書という感覚があります。こういった本を繰り返し読むのも大事だなとは思うのですが、なにか筋道たって覚えられない気がしていました。

たとえると、英単語を1つ1つ覚えても、英語が上手くなるわけではない。もちろん英単語を覚えることは必須ですが、英語の文法、実際の話し方や書き方は、それとは別に学ばなければいけない、といった感覚です。

あらきっぺさんの作品は、戦いの根底にある考え方や、原理・原則を学ぶとも言えるので、構想力・大局観が身に付きやすい。千差万別の局面が生じる実戦でも応用が利きやすい、と思います。

攻めるなら詰ませる、そうでないなら受け抜く

『終盤戦のストラテジー』は、終盤で勝ちきれなかった、ぐだぐだの詰め方になってしまった、といった将棋初心者に読んでもらいたい内容です。

私にとっては、攻めるなら詰ませる、そうでないなら受け抜く、という考え方が、今回一番の収穫でした。

私は本を読む前、相手が寄せてくると、こちらも仕返しとばかり、相手陣に攻めの駒を打つことがありました。でも、それが往々にして中途半端な手になる。相手は意に介さず、こちらを攻め続ける。手持ちの駒を1個無駄に捨てただけ、こんなことなら防御の駒にとっておくんだったとなる。防御にまわせる一手を損した、自玉を逃げておくんだった、と言える行為です。

だから、半端な攻めっ気はぐっと堪えて、最後まで相手の攻めを受けきるようにしたのです。受けるときは出し惜しみしない。金銀ぜんぶ使っても受ける。飛車だって切る。もちろん詰ませられやしないか冷や冷やしますが、受けきってみれば、すごい手駒の数。そして、もう相手の攻めが続かない、こちらの詰みがないとなったら、一気にカウンター。

私はもともと何か得意な戦法や手筋があるわけではないので、この受けきってから攻める、が性に合っているのかもしれません。今までよりも逆転勝利を得ることが増えてきたように思います。

終盤は煮詰まっている

『終盤戦のストラテジー』全体を通しての感想は、将棋の終盤は、煮詰まっているなあということです。

序盤は、打つべき手がほぼきまっている、定跡がある。

終盤は、それと同じとは言えませんが、攻めるべきなのか守るべきなのか、という大きな流れが決まっているように感じたのです。

終盤において攻め方はいろいろとはいえ、序盤・中盤と進むなかで、将棋の自由が収束してくる。ブラックホールに吸い寄せられるように、駒1つ、動き1つがぎしぎしと密接しあって来る。

だから、その大きな流れから少しでも踏み外すと、とたんに悪手・疑問手になる。次善手であったとしても、形勢に大きな影響を与えてしまう。あらきっぺさんが本著の中で、一手の密度が増す、といった表現をしていますが、まさに言い得て妙。

この終盤の大きな流れの中で、大事なことは何かを体系だって語ってくれているのが、あらきっぺ『終盤戦のストラテジー』です。

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