将棋の町道場で指導対局しているときに、「ここはバラしておいた方がよかったね」と言われ、最初はなんのことかよく分かりませんでした。
「バラす」という用語は、平たく言うと、にらみ合っている駒同士をどんどんぶつけ合って、取り合うことだと思います。結果として、戦場に駒があまり残らず、互いに複数の持ち駒を得ることになります。「バラバラにする」から来ている用語だと思います。「精算する」や「取り合い」「殴り合い」「チャンバラ合戦」「更地にする」とも言います。単発での「切る」とはまた少しちがった概念だと思います。
よくあるのは、盤面中央で、銀と銀をぶつけ合って、その直後に、角同士も取り合って、最後に歩で取って、いったん落ちつく、といった流れです。中央での駒のにらみ合いが解消し、互いに角銀を持ち駒にしている状況になります。
中終盤でバラすかどうか選べる局面に遭遇しますが、私はいつも迷います。バラさずに駒を引いたり、駒を足したりすることの方が多いですが、果たしてそれでよかったのか、バラしておいた方がよかったのか、よく分かりません。私の棋風がガンガン攻めるタイプではない、というのも影響しているかもしれません。
特に相手玉を追い詰めている時、こちらの攻め駒を相手の守備駒たちにぶつけて、バラすべきか、本当に迷いに迷います。持ち時間が押してくる緊張感の中での判断ということもあります。相手の玉が裸になったとしても、その後で寄せきれるのか、あるいは、相手が持ち駒を使って逆襲してくるのか。詰められるかどうかの自信の無さよりも、カウンターをくらう不安感の方が強いかもしれません。
迷うということは、しっかり読み切れていないということです。読みの深さや精度、終盤力、寄せの力が足りないということです。バラすと、相手にも複数の持ち駒が渡るので、なんとなくの読み、曖昧な勝負勘では、危険です。
バラすと、駒を取り合っている間に、5手から9手くらい。相手が持ち駒を投入してくれば、さらに長い手数。そして局面が変化する。お互いの持ち駒に何が残るか。その先にどんな有効な手があるか。盤上がすっきりするので打てる手も多くなる。そういった複数の要素がからみ、数ある選択肢の中から最善を読み切らなければなりません。
果たして、そんな色々な可能性を、級位者の今の私に読み切れるでしょうか。まだまだしばらく、バラすという手段には、踏み込めないないかもしれません。
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