私にとって角換わりは、初心者の頃から忌避すべき戦型でした。相手が持ち駒となった角を、こちらの陣地にいつ放ってくるか怯えならの戦いを序盤から強いられるからです。やがて、角の打ち込み場所を消す駒組みにも慣れてきましたが、今度は、中盤を抜け出すには、どこから手を付けてよいか分からない戦型になりました。少しでも駒を動かすと、また相手に角を打ち込む隙を与える。かといって、このまま何もしない訳にもいかない。不自由さあるいは窮屈感が付きまとう角換わりを、好きになれない級位者も少なくないでしょう。
ただ、角交換を拒み、角道を閉ざした戦型を保って戦うには限界があります。角落ちで戦っているに等しいからです。それと同時に、強力な攻め駒である角を手持ちにした角換わりは、将棋のダイナミックな戦いを楽しめる戦型でもあると最近少しだけ思うようになりました。角換わりの苦手意識を和らげるために、ここで、その対局の流れや形、方針を言語化してみたいと思います。
角換わりとなったならば、基本的に心掛けるべきことは、無暗に攻めないことです。角換わりでは5筋の歩は突くなは常識ですが、それ以外の駒も同様です。攻めのためには、歩を突いたり、銀を進出させたりしますが、それらはやはり相手に角打ちの隙を与えます。駒の連結を意識して、決して駒をタダ取りされないようにする。いつもの駒組みや仕掛けの準備以上に、一手一手を慎重に進めなければなりません。場合によっては、千日手になってしまってもいい。下手に角打ちの隙を与えて、自陣が瓦解して負けるよりは、よほどましです。繊細な指し手と図太い神経を試されるのが角換わりの戦いだと肝に据えるべきです。
かなり高度な手法になると思いますが、相手に馬を作らせるが自陣に引かせるだけならば、角打ちの隙を与えるのも手法です。もっと強力な破壊の筋で角打ちされるよりはましです。相手の馬の働きが悪ければ、角をまだ持ち駒にしているこちらの方にも後々の希望があります。伝家の宝刀のように、ここぞというタイミングで角を使うのです。
とはいえやはり、相手にだけ馬を作られるのも面白くない。陣形として隙がなく、ある程度の攻撃力を保つためには、地下鉄飛車の形が最良と思えます。駒たちが密集し、下段は飛車の横効きでしっかりガードする。角換わりとなったならば、この形を目指して駒組みを進めるのが第一候補です。攻めの糸口を探すのはそれからでも遅くはない。
相手陣に角を打ち込んで、馬を作ろうという事に固執しないことも、角換わりでは大事です。自陣に角を据え、飛角銀桂を連動させた攻めを狙う。将棋の理想的な攻め方のはずです。角換わりではない、いつもの戦いならば、その攻めの筋を追求しているはずです。馬でなくても角で十分な遠隔攻撃力を持っている。しかも、自陣内ならば、角をどこでも好きな場所に打てる。好ポジションが約束されているのです。三手角や四手角のような手数も要りません。居飛車党であっても、振り飛車の戦法である藤井システムやトマホークに通じているのは、角換わりでは有利に働くでしょう。
角と銀との交換は、安易に行うべきではありません。持ち駒の角を銀のように使い、飛車先にぶち込んで攻めたりもできますが、その交換が銀では後々の形勢が怪しくなります。角と金の交換価値については最近では議論があるようですが、角と銀との交換では、基本的に角の方が価値が高いと考えるべきです。攻め駒としての機動力が違いすぎます。鬼より怖い二枚飛車に並ぶような、二枚角の格言を私は知りません。しかし、二枚の馬が、駒の合間を縫って縦横無尽に位置を変える。複数の斜めの効きを常に警戒する必要ある。それは想像するだけで、やっかいな戦いです。
もし自分が馬を作るならば、自陣に引いては、長期戦を覚悟しないといけない。相手には、まだ最良のタイミングで角を打ち込むチャンスがある。馬はそのまま自陣で警護に着く可能性も低くない。馬を作るならば、相手陣に留まり、相手玉を脅かす存在でいるのが理想です。単に桂香を拾うためだけに馬を作っては価値が低い。相手の囲いの崩しにまで連なってこその馬作りです。