相居飛車の戦いで勝利するためのイメージをふくらませたいので、その対局の流れや形、方針を、ここで言語化してみたいと思います。
相居飛車は、基本的に駒の配置が鏡像になっています。互いに、飛車は2筋を中心に据え、玉は左寄りに囲うことが多い。飛角銀桂の向かう先が相手玉です。相手陣に切り込むことは、相手の囲いを崩すことに直接的につながり、一気に最終盤の寄せにつながる傾向が強い。そういう観点からは原理的に、相居飛車の戦いでは、先に仕掛けた方が、相手陣を崩しやすく、勝ちやすいと思います。棒銀や横歩取り、右四間飛車など、基本的な攻め口については一通り、事前に対策を覚えておくことが必須と言えます。苦手の戦法がある、知らない仕掛けの筋があることは、相居飛車において致命的な結果につながりやすいです。
けれど、互いにさまざまな仕掛けの筋、そしてその対策を知り合っていることが多いのも、相居飛車の現実。同門の武術家同士の戦いと言えるかもしれません。迂闊に仕掛けては、駒損の攻めとなって、逆襲をくらってしまう恐れがある。そうすると、勝率を上げるための戦い方、あるいは、負けにくい戦い方は5つに分かれる。
1つ目は、自分の得意とする戦法を極めること。飛角銀桂を連動させた攻めはやはり強力です。微に入り細を穿つまで事前に研究しておく。相手の駒の配置も含めて、分岐を網羅しておき、仕掛けの幅を多く持っておく。最初の仕掛けが成功したと仮定して、二の矢、三の矢を仕掛ける筋も仕込んでおく。可能ならば、相手玉を詰ます手順まで研究しておく。それらを一手の無駄も無く先に繰り出せば、相居飛車戦では勝ちにつながりやすいはずです。
この時に注意しなければならないのは、必ずしも、飛車が竜になるのを狙わない攻め方もあることです。居飛車=飛車が絶対的な主役という意味でありません。飛車は主に2筋に据えるというだけです。場合によっては飛車を見捨ててでも、馬成りを狙ったり、銀を進出させたりする方が、勝勢につながる仕掛けも存在します。
2つ目は、盤面中央をはさんでの駒のにらみ合い、ポジション争いに持ち込むこと。いわゆる持久戦になります。互いに仕掛ける隙が見当たらないならば、無理に攻めず、相手の攻めの手を消すことに専念する。特に相手の銀が5段目以上に進出しないよう警戒する。こうなると、じりじりした戦いになり、歩や桂馬、香車を使った、小技と言えるような手筋をどれだけ多く知っているかにかかってくる。地下鉄飛車の構えまで組めれば攻防共に手堅くなる。激しい力戦が得意でないならば、初めから風車等の構えを目指すのも有りだと思います。
3つ目は、相手玉を直接狙うのではなく、まず相手の飛車を狙うこと。飛車は玉以上に取られたくないというのが特にアマチュア級位者には強い傾向です。また、飛車はコビンが弱いという欠点を持つ。さすがに鬼殺しは簡単に決まりませんが、角の配置を替えて、相手飛車に睨みを効かす。相手の攻撃を抑制しつつ、スローペースでの戦いに持ち込めます。
4つ目は、相手の右桂馬を狙うこと。居飛車で破壊力のある攻撃をしようと目論むと、どうしても右桂馬を跳ねてゆく必要があります。飛車と銀の攻めでは、せいぜい銀交換になるのが精一杯です。桂馬をからめて拠点を作りにゆくのが居飛車の戦いの常套手段です。ただ、桂頭の弱さは明確です。桂馬は一度前に進めば、もう退けないという特性もある。桂頭を攻め立てることで、相手の銀や飛車を忙しなくさせることができる。逆の観点からすると、居飛車で右桂馬を跳ねる以上は、総攻撃を仕掛ける目算をしっかり持っておかなければらないということです。
5つ目は、左端の突破を狙うこと。相手の右桂馬が跳ねてしまえば、相手の左端の守りは香車のみ。飛車を使っての応援にも限度があります。そもそも飛車を警護に当てるなど、飛車本来の攻撃力を活かした布陣ではありません。ただ、相居飛車であれば、左端を攻めにくいのも事実。自玉に近い方面で戦いを起こすことになるので、危険度が高いです。それを見越して、自玉を中住まいや右玉などに構えていれば、左端攻めも視野に入ってくる。
1つ目の、得意戦法を磨くに磨くという戦い方が、相居飛車の王道だと思います。どれだけ自分の攻めを洗練させているか、居飛車の純度を上げているか、が問われるのです。この形であれば自分は詰みまで持ってゆける自信がある。その亜形であっても攻め筋を知っている。そういう武器を多彩に持っているかどうか。相居飛車での戦績で伸びやなんでいるならば、まだまだ、自分の居飛車の攻めが鈍らだという証です。そして何より、将棋は相手玉に迫り詰ますことが本道です。相手の飛車や桂馬や左端突破を狙っても、それで勝てるとは限りません。相手玉に向かう本筋の攻め、速く鋭く力強い攻めこそ、常に考えるべき方向性だと今の私には思えます。
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