将棋の初段を目指す際に、定跡書を読む方がよいかどうかは意見が分かれます。
一冊丸々暗記するくらい読み込んだ方がよいといった考えもあれば、難しいから詰将棋を解いていた方がよいといった考え方もあります。
そもそも将棋の定跡書は、誰に向けて書かれたものなのか、どのレベルの棋力があれば読みこなせるのか分かりづらいなと思っています。書名やキャッチコピィには「これ一冊で完璧」「ガンガン勝てる」「初段をめざす」などなど勇ましいものが少なくありませんが、多くの場合、初段付近の棋力が必要ではないかと思います。私が定跡書をなんとか読めるかなと思うようになったのは、3級に近くなってからです。タイトルや章立てにひかれて買ったものの、読めずに本棚にしまってある定跡書がまだ10冊近くあります。教科書のように、小学3年生向けとか大学生向けとか、ある程度明確な指標が付いていれば迷わずに買える、あるいは買わないでおくのですが、なかなかそうはなっていません。定跡書には、中級位者(4~8級)/上級位者(1~3級)/初段前後(1級~2段)/高段者の4つくらいの区分が最低でも明確に記してあればよいのになと思います。
定跡書は、研究書と言えます。どうすれば上手く戦略が成功するかだけでなく、上手くゆかないケースもカバーして書かれています。局面の分岐が多く、紙面の都合上、符号もたくさんで難しい。頭の中で棋譜を並べられないとすんなりは読めません。局面が行きつ戻りつするので記憶力や集中力も必要です。多くの枝葉や意味、手筋をカバーしているからこそ定跡書なのですが、その膨大さこそが級位者にとっては壁です。
小説を読む人は少なく、映画を見る人は多い。将棋の定跡書が読めないのも、それに似た面があるのだろうなと思っています。ある程度の読解力や想像力が無いと、小説は楽しく読めない。けれど、映画ならば誰でもすんなり楽しめる。将棋の初心者や初級者は、棋力や経験がまだ足りないから、定跡書を読むのは苦労する。それよりは、動画や指導など具体的な目の前の動きで、駒の働きを学んだ方が効率が良いのだろうなと思っています。