終盤の棋譜解析をしている際に、将棋AIが、なんだその過激な手は、と思わず尻込みしてしまう読み筋を最善だと示してくることが、私にはしばしばあります。
たとえば、せっかく作った竜を相手にタダ取りさせて、自陣にいる相手の馬も構わずにおいて、その間に相手玉を寄せにいっちゃいましょう、といった読み筋です。
AI先生、私にはちょっとその手は採用できません。
その読み筋が成り立つためには、自玉が絶対に詰まないという受けの力と、一手の無駄も無く相手玉を寄せきる終盤力が必要です。時間も減っている中で、人間にそれらが正しく判断できるかというと、なかなかそうはいかない。まして私のような棋力では尚更です。
将棋AIは、序盤や中盤では、一歩を捨てることさえ、評価しない傾向があると私には思えます。私はその次の攻撃で垂れ歩をしたいために歩を突き捨てているのに、一歩の差がついたら負けですよ、というくらいの勢いでその手を将棋AIは否定してきます。将棋AI同士の戦いではきっとそうなのでしょう。過剰にも見えるその堅実さなのに、終盤では駒の損得は度外視で、どんなに長手数であろうと、相手玉を寄せられるかどうかだけを見つめて判断してくる。
将棋AIが示すそんな読み筋は、私にはロシアンルーレットに思えます。しかも弾丸が薬室6つのうち4発入っているような危険な賭けに見えます。その引き金はやはり引けない。けれど、将棋AIからすると、それは1発も弾丸が入っていない拳銃なのでしょう。だから、そもそもロシアンルーレットですらない。勝ちに結びつく、ただひたすら確固たる手段なのです。当然、引き金は引くべし。いや、私には狂気の沙汰に見えるその読み筋は、将棋AIからすると、当選すると分かっている宝くじを淡々と手に入れに行っているだけ。
将棋AIの評価値と人間的な勝ちやすさとは別だ、としばしば聞きますが、そのことがほんの少しだけ垣間見えた気がしました。