私が初めて石田流と対峙したのは、たしか4級の頃でした。石田流という存在を知らなかったので、初めてその形を見た時、なんなんだこの形は、とびっくりしてしまいました。桂馬の上に飛車がいるなんて、最初は奇異な形に思えたのです。歩・飛車・桂馬とその効きの範囲を想像すると、なんだか巨大なカブトムシかクワガタがでんと構えているような印象も覚えました。
でも、よくよく見ると、飛車の弱点であるコビンを桂馬が守っている。桂馬の弱点である桂頭に飛車が居座っている。それと同時に、飛車の横効きで、簡単には歩突きや歩交換をさせない。しかも、相手は右桂馬を活用したくても、3三の歩(後手なら7七の歩)が邪魔でできない。
初見では異様な形と思えましたが、石田流はしっかり棋理に適っていたのです。攻防一体となった構えによって、居飛車側の求める序盤を封じてしまったかのようです。それからしばらく私は、石田流に苦しめられる時期が続きました。対振り飛車戦では、頼むから石田流は止めてくれと願っていたほどです。居飛車党が最初にぶちあたる対抗形の壁だったのかもしれません。棒銀はしっかり対策をしないと、すぐに潰されてしまいますので、棒銀対策は懸命に勉強しました。それと同じくらい石田流の対策にも気をつかいました。
石田流に出会って私が大いに学んだことは、将棋においては、ある種の陣形を組んだ時点で、優劣に差が出てしまうということです。駒を単発で使おうとするのではなく、駒が連結し合って発揮する力をどれだけ伸ばせるかも勝負を左右する。それぞれの駒には強みも弱みもあるが、補い合って、さらに威力を増すことさえできるということです。